寺坊侑烏になるまで

7)旅好きガラス作家の始まり

突然ステンドグラスを始めた私は、ステンドグラスが何物なのか?日本でただ作っていても分かりそうもない!ということに気づきました。

一番の親友がロンドン赴任になり、持っていけなかった荷物を届けるついでにフランスのナンシーへ行ってみることに。

ナンシーはアールヌーボーの聖地のような街で、建物もインテリアもガラスもたくさん見れました。ストラスブルグ、パリ、モンサンミッシェルなどフランス北部を周り、合計2週間。これが初めての海外一人旅でした。

当時はスマートフォンが無いどころか携帯も通じず、心配する友人や家族にテレホンカードで駅から電話をしたのが懐かしいです。イギリスでは英語表記なので知っている単語もありましたが、フランスには英語がほとんど書いてなくてユーロスターを降りた途端に地名も読めないチンプンカンプンに🙈

現地の観光案内所と地球の歩き方の情報以外はコミュニケーションしかないわけですが、、、日本語しか話せないので、、、電車やバスの時間は適当だし、レストランのメニューは記号にしか見えないし、そもそも人見知りで出不精、足が悪くて、体力もない、笑顔も足りない、飛行機嫌い、一人旅に向かないので大冒険で苦行のようでした(´;ω;`)

海外は怖い、危険だったら走らなきゃ!と後ろに大きな登山用のリュックに斜め掛けバックだったのが、帰るころには前にも大きなリュックになり、なぜかモエ・エ・シャンドンで珍しいシャンパンなんかも入り重量30kg近かったと思います。足のマメも重さで潰れ、走るどころか誰も近寄らない形相だったかも。

もっと楽に辿り着くことは出来たはずなのに、自ら苦労を作り出してしまい悲惨な気持ちで出会ったステンドグラスの輝きは素晴らしかったです✨✨

今では観光地で賑わうパリのサントシャペルは、ほぼ貸し切り状態でじめっとしていて暗く、2階は宝石箱の中に入ったような驚きの空間でした。

ステンドグラスファンの憧れ、シャルトルのマリア様の水色ガラスは今も思い出すだけで心が洗われるようです。

巡礼地のカンタベリーではイギリスらしい20世紀のパープルやピンクなどゴールド発色のガラスが多用されている窓が幾つもあって、弱い日差しに暗めのガラスがしっとりとした印象でした。

旅の最後の方に見たランスのシャガールのステンドグラス。窓全体が青のグラデーションで神の概念のように感じ、今まで見たステンドグラスと違って、絵付けの表現も素晴らしいと見方が180度変わりました。

それまで、窓に聖人とはいえ老人の顔が幾つも並ぶなんて不気味、、、と思っていたので、絵が付いていないアールヌーボーの方が好きでしたが、絵付けで出来る表現の可能性を知りました。

一見は百聞に如かず。

有名無名問わず、現地で愛されるステンドグラスを探して。2年に1度はお金とマイルと情報を貯めて2週間~1ヶ月の一人旅。

イギリス、フランス、スペイン、イタリア、オーストリア、スイス、チェコ、ドイツ、ベルギー、オランダ、は何回かに分けて少しずつ周った国もあります。アジアは香港、マカオ、台湾、韓国、ベトナム、バリ、フィリピン、トルコなど教会、モスク、駅、空港、、、たくさん見つけました。

アートフェアに出展するようになって、現代アートや現代ガラスアートに興味は移り、アメリカはティファニーのガラス以外にもチフリーの展示やコーニングにも行きました。ニューヨークが好きでコロナ前は仕入れも兼ねて年に1,2回行くようになりました。

旅の中でも、一生懸命の想いは言葉がなくても伝わるようで、休館日の美術館を開けてくれたり、オフィスビルに入れてくれて窓から屋根に出してくれたり、裏側を見せるために立ち入り禁止スペースに案内してくれたり、なぜか無料で中に入れてくれる美術館なども多くて💦 行き帰りに乗せてくれたり、詳しいだろう人を紹介してくれたり、、、優しい人にたくさん出会えました♡

もちろん、優しい人ばかりではなくて、女一人で歩いているので、スリに付き纏われたり、差別を受けたり、色々あります。

ドイツのケルンは4回行って、やっと探していた窓を見つけられて嗚咽するほど号泣してしまいました。普通のビルの中で完全に不審者だったでしょう。

旅の想い出は語りつくせないので、おいおいステンドグラス紹介と共に書きたいと思います。

教会のステンドグラスだけではなく、現代建築や公共施設にガラス作品が使われているので、空間に対する影響や役割を知りました。

作り方や取り付け方も日本では見れないものがたくさんあり、自分の技術が進むにつれ、理解度も増します。

旅と自宅での制作の両方を繰り返すことで、私の制作方法や世界観が少しずつ出来ていったと思います。まだまだ見たいもの、作りたいもの、ほかの人にも伝えたいことが尽きません。

ガラスのことだけではなく、一人旅をすることで多くの学びや気づきがありました。それらが今の私を作っていると思います。

ステンドグラスの本質は光です。光が色になって見える、それはとてもシンプルで最も重要なことです。光や色が空間や人に与える影響を作るのがステンドグラス作家の仕事です。もちろん写真にうつるようなデザインも大事ですが、見た人が抱く印象、受ける波動など、存在そのものが光なので、光をどのように届けるのかについて作家一人一人に答えがあると思います。

私はこれからも旅と制作を続け、いつか作るべきものに辿り着いたと思える日が来ると願って全力投球していたいです。

  • この記事を書いた人

寺坊 侑烏 Yuu Jibo

旅好きガラス作家。制作の傍ら、ガラスが使われている空間を歩いて探している。今までに20年以上、20か国以上、見つけたステンドグラスは数知れず。女一人、ほとんどボディランゲージで現地で愛される現代の窓を見つけるたびに感動と感謝の涙が止まらない。

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