寺坊侑烏になるまで

8) ハンドメイド作家?アーティスト?職人?

ステンドグラスは、元々は小さなガラスをつなぎ合わせて大きな窓にすることから始まり、絵を描けるようになって布教の役割を担いながら世界中に拡がりました。19世紀にティファニーランプが考案されてから照明のインテリアとして流行りました。最近ではハンドメイドと言われる分野の小物が増えています。

技法が簡単になるにつれて、大きな物から小さな物へ、制作する人は修道士から職人、家で趣味で楽しめるところまで身近になりました。

私は最初にアメリカ式のケーム工法、ティファニー工法、フュージングを学び、その後フランス式の絵付けとヨーロッパ式のケーム工法の学校を卒業して、フュージング工房で助手として小物や体験教室キットを作って、独立しました。

多くの方は、小物制作から徐々に大きな物や難しい技法へ進むのではないかと思うのですが、全く逆の順番です。

高尾山、筑波山、富士山のように徐々に高くするところをいきなり富士山を登り、里山へ高度を下げていったので、チャレンジするところが高さではなく、ルート選びや技術、速度だったと思います。当時は全部チャレンジだったので、高いも低いも何もなく、課題しか見えてませんでした。目の前のことしか見えていないのは今も同じです(^^;

独立してから、ハンドメイド作家の括りで百貨店の催事に出店したり、アーティストとして海外のアートフェアに出展したり、職人として下請けの窓の制作をしたり、、、作業は同じなのに、作品も人としても扱われ方や報酬も違って、作らせてもらえる内容にも差があって。求められることが全然違いました。自分がどれに当たるのか決めたほうが良さそうだと気付きました。

お洋服で言うと、ブランドがあって、デザイナーがいて、パタンナーがいて、縫製する人がいる、みたいなことにステンドグラスもなっていて。私は全部をやるけれど、どの立場の人ですか?と聞かれることが多くなりました。同じ材料と技法で、コンセプトも同じだとしても作る立場によって評価が変わるらしいです。

確かに、どれかに決めると日々の過ごし方も違うし、マインドによって作るものも変わるし。立場が上とか下とかではなく、自分の得意なことでエキスパートになれば楽しくて生きやすいと思います。他人の評価はまた別です。あまり関係ないと思います。

考えてみると、デザインだけして制作を他人に任せるのは、作るのが好きで始めた私には無理。だけど他人のデザインで作るのはあまり好きじゃなくて、特に使うガラスを指定されるのが苦手。手を抜くのも苦手。ここで、職人をかかえるデザイナーと、デザイナーがいる工房での職人が選択肢から消えました。

アーティストというのは、METなどに展示される観賞用のドレスやココ・シャネルのように女性がパンツスーツを着て男社会で仕事をするようになるなど、社会の価値観を変えるような物を作るタイプなのではないか、と思うのですが。

海外のアートフェアに出品したり、世界中の有名なアートフェアや芸術祭、クラフトフェアに行って、私はアーティストではあるかもしれないけれど、ファインアートの分野は鑑賞者として楽しむ方が良いと思いました。

海外では独自の技法や展示法を評価して下さる方もいましたが、有名なアートフェアに出たいというのと、ガラス美術館に収蔵されたいというのは全然違う話なのです。そして、さらに私は美術館に収蔵されたくてステンドグラスを作っているのではなくて、人々が過ごす空間に何気なく作品があって、癒されたり和んだりしてくれたらいいなと思っているので。作品単体が3日間で高額で売れないと!みたいなことは皆目見当もつかないのでした・・・

他には、同じ型紙とガラスで量産するファストファッションのような作り方も性分ではなく、消去法で辿り着いたのは、毎年ランウェイに出す巨大メゾンではなく、独自の世界観を表現できて、着てくれる人の為に作れる小さなオートクチュールの工房でした。

一体、なにそれって感じだし、誰でもわがままにやりたいでしょ、と突っ込まれるのは承知してますが、自分で思うのは勝手なので、そこを芯においてやっていきたいと思ってます。

ステンドグラスを商売としてやるなら、プレタポルテくらいがやっぱり良いのではないかと思います。流行っているものをアレンジして、マーケティングやブランディングをして、需要があるところに合わせる必要もあると思います。これも私には難しいかな。

自分にとって「丁度良い」というのは、時代・年代・価値観が変わると共に変化しますが、自分が思うだけじゃダメです。他人からも「丁度良い」と判断されないと、その場はやってきません。

他人は自分の仕事の中身にまで興味があるわけではなく、しかし客観的に正しい判断をするものだと思います。

「小さなオートクチュール」であることを活動を通して、時間をかけて少しずつ理解してくれる人が現れて、自分がそれを言える技術と品格がある作品を作って、その作品がまた誰かを連れてきてくれて、の繰り返ししかない。

その方法しか思いつかなくて、そうやってきて、今に至ります。

アーティストなのか、職人なのか、ハンドメイドなのか、結局それはどうでもよくて、自分を知る、そしてそれを他人に伝えることが大事だったのかな。私は知るために何年もかかり、全部試してみないとわかりませんでした。

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ガラス作家 寺坊 侑烏(じぼう ゆう)は「1000年残るステンドグラスを作ります」を信念に、

全国の公共施設、商業施設、住宅の空間に彩りを加えるアートガラスを受注制作しています。

ヨーロッパを中心にステンドグラス視察のために20か国以上訪れ、有名・無名問わず、これは!と思うステンドグラスの紹介とガラスや制作を通じて得られる学びや想いを綴っています。

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  • この記事を書いた人

寺坊 侑烏 Yuu Jibo

旅好きガラス作家。制作の傍ら、ガラスが使われている空間を歩いて探している。今までに20年以上、20か国以上、見つけたステンドグラスは数知れず。女一人、ほとんどボディランゲージで現地で愛される現代の窓を見つけるたびに感動と感謝の涙が止まらない。

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